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2010年9月2日木曜日

Leaving Oracle, Joining DeNA

 9月1日付けでオラクルを退職し、9月2日付けでディー・エヌ・エーに転職しました。新会社への入社の報告よりも(だいぶ)前に退職の報告をする方が多いようですが、私が外向けにオラクル退職の報告をするのはこれが初めてです。退職と転職の報告と同時に行なうのは、多くの方がナーバスになっているオラクルとMySQLの行く末について、できるだけ悪い印象を与えたくないと考えたためです。ディー・エヌ・エーは世界でも指折りのMySQLの超ヘビーユーザとして知られています。オープンソースの世界では、ベンダーからヘビーユーザの事業会社に転職し、その専門性を生かした仕事を続けることは珍しくありません(オープンソースのメリットの1つです)。というわけで、引き続きMySQLの仕事を続けます。MySQLコミュニティの方はどうか安心してくださればと思います。今後ともどうぞよろしくお願い致します。

 私は2006年9月にMySQLに入社して以来、2度の買収(サン、オラクル)を経て、のべ4年間を「MySQL本家のMySQLコンサルタント」として過ごしてきました。サービスに対して対価を受け取るコンサルタントとして勤務するのも社会人として初めてのことだったのですが、それ以外にも以下のような得難い経験をさせて頂いて、自分にとって忘れられない4年間となりました。

・米国やインドなど海外の顧客に対する難度の高いコンサルティング業務の遂行
・MySQLの開発者会議への参加や、コードのコントリビュートを通じてのOSS活動
・多いときは月数回の海外出張
・上司がアメリカ人。人事考課や交渉事なども米国流で当然すべて英語
・同僚や顧客の多くが外国人で、時差を調節しながらの在宅勤務をベースとした仕事
・メール、会議、カンファレンス等はすべて英語。質疑応答なども当然英語

 英語圏の企業で働くということは、言葉が変わるだけでなく文化も当然のことながら大きく異なるわけで、この点については「会議で言葉を英語にしただけの日本企業」では決して得られない経験ができたと思います。特に、彼らの本当の意味でバランスの取れた「ワーク・ライフ・バランス」には驚きました。年間25日の有給を取ったり、1ヶ月の長期休暇を取るようなワークスタイルは、ただ時間をかけて働くことが全てでは無いと改めて感じるものでした。1ヶ月ホテル暮らしでその月の経費精算が100万円を超えたことや、オフィスへの定期代の支給をしてもらうためにSkypeで上司と(米国では定期代支給の文化が無い)激論を交わしたことも今となっては良い思い出です。また英語漬けの環境で、私自身もずいぶんと国際化した感じがしました。趣味の面では、マンU vs チェルシーを現地観戦したり、米国でマリナーズ戦を観たりと普段できないことができて良かったと思います。

 ソニーで5年半働いた後に、2006年9月にMySQLに入社した時は、会社が存続する限り働きたい、できれば5年は持って欲しいと思っていました。まさか1年半弱で(サンに買われたことで)会社が無くなってしまうとは想像もしていませんでした。また、サン自体もソニー時代からよく知っていた会社で、多少なりとも愛着があったのですが、最終的にBEAとかマカフィーすらも下回る企業価値となって消滅したことは残念でなりません(Javaの本家なのにWebLogicより価値無いのかよ!)。ですが、オラクルは安い買い物をしたと確信しています。MySQL、サン、オラクルと、のべ4年間をMySQL本家で働けたことに後悔は全くありません。特に2007-2008年は良い同僚にも恵まれ、幸せでした。

 2度の買収というのは精神的にも事務手続き面(経費精算とか勤務管理とかの諸制度も変わる)でもタフなイベントだったのですが、最後にオラクルで働く中で「MySQLデータベースの行く末はまだまだ安泰」ということを強く感じました。性能面、拡張性、ユーザーベース、品質担保、使い勝手などどれを取ってもMySQLはきわめて優れており、だからこそ世界中で支持されてきたのだと思います。多くの方はすでに忘れているようですが、MySQLの中核のInnoDB(の開発元のInnobase)は、2005年にオラクルに買収されました。当時は誰もがMySQLは終わった、InnoDBはもう進化しない、と考えましたが、その後の進化ぶりは見ての通りです。InnoDB作者のHeikkiをはじめ、MySQL/InnoDB開発者の大半は今もオラクルに在籍しています。簡単にMySQLをオープンソースRDBMS2番手以下の地位に甘んじさせるとは考えられません。また製品評価の指標から見落とされることが多いのですが「品質」は極めて重要なポイントで、この品質は最終的には多くのユーザから使われることによってのみ担保されます。現在ユーザーベースでぶっちぎりの一番手にいるMySQLよりも品質の良いオープンソースの代替製品が果たして出てくるのかどうか。MySQLの行く末に不安を持つ方も多いと思いますが、片手間ではなく本気でMySQLを使っている人こそ、この点について共感してもらえるのではないでしょうか。


 新しい職場のディー・エヌ・エーのことについても話をしたいと思います。ディー・エヌ・エーと私の関わりは今に始まったことではなく、実は3年以上前からお誘いの話を頂いていました。私自身がMySQL本家を辞めることを考え始めたのはごく最近のことだったのですが、ちょうどその時期にディー・エヌ・エーがMySQLのスペシャリストを探していたのでラッキーでした。同じ時期に米国と欧州のMySQL系企業からもお誘いの話を頂いたのですが、海外の企業からそういった話が自分のところに来るというのはMySQLに行く前はありえなかった話で、自分自身も成長した気がします。日本で面白い職を見つけられたことは良かったし、私に対して価値を見出してくれたディー・エヌ・エーの方にはとても感謝しています。チームメンバーのこれまでの成果(オープンソース製品やDBマガジン等の記事など)を見るに、技術レベルが相当に高いという印象を持っています。その環境はプレッシャーにもなりますが、真のグローバル企業であったMySQL社の中で積んできた経験と知識・感性を真正面からぶつけていくことで、早期に貢献していければいいなと思っています。どうぞよろしくお願い致します。